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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)11号 判決 1996年6月28日

名古屋市昭和区高峯町七六番地

原告

天野道造

右訴訟代理人弁護士

鈴木順二

名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地四号

被告

昭和税務署長 小森秀逸

右指定代理人

西森政一

同右

番場忠博

同右

樹下芳博

同右

木村勝紀

同右

小田嶋範幸

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の平成六年分の所得税について、被告が平成七年七月七日付けでした更正を取り消す。

第二当事者の主張

一  争いのない事実

1  原告は、平成六年一〇月二四日、名古屋簡易裁判所平成六年(イ)第二八〇号土地所有権移転登記手続等和解事件において、天野鋼鉄株式会社(以下「天野鋼鉄」という。)との間で同社から三億円の解決金(以下「本件解決金」という。)の支払を受ける旨の和解をした。

2  原告は、平成七年三月九日、原告の平成六年分の所得税について、本件解決金が平成六年分の一時所得に当たるとして、確定申告をした。

3  これに対し、被告は、平成七年七月七日付けで、本件解決金が平成六年の一時所得に当たらないとの理由により、更正(以下「本件更正」という。)をした。

4  右確定申告の内容、別表1の確定申告欄記載のとおりであり、本件更正の内容は、同表の本件通知欄記載のとおりである。また、本件課税及び不服申立ての経緯は、別表2記載のとおりである。

二  争点

1  原告の主張

(一) 本件更正は、次の理由により違法である。

(1) 一時所得の総収入金額の収入すべき時期に関する所得税法基本通達三六-一三は、本文において、支払を受けた日によるものとしているが、そのただし書において、「その支払を受けるべき金額がその日前に支払者から通知されているものについては、当該通知を受けた日」によるものとしている。

(2) 天野鋼鉄は、本件和解において、原告に対し本件解決金を支払う旨の意思表示をしているから、本件解決金は、右ただし書の「その支払を受けるべき金額がその日前に支払者から通知されているもの」に該当し、本件解決金請求権は、本件和解成立時において、権利として確定したものである。

(3) したがって、本件解決金の収入すべき時期は、和解成立時である平成六年一〇月二四日である。

なお、本件解決金の支払については、附款があるが、それは、不確定期限を定めるものであって、停止条件を定めるものではない。

(4) しかるに被告は、右基本通達の解釈適用を誤り、本件解決金の収入すべき時期が本件和解成立時でないとして、平成六年の一時所得に当たらないとした。

(二) 本件解決金が平成六年の一時所得に当たらない旨の更正がされると、平成三年において生じた純損失による繰越控除が認められないことになり、それによって、原告は、著しい不利益を被る。

したがって、原告には、本件更正の取消しを求める訴えの利益がある。

(三) よって、原告は、本件更正の取消しを求める。

2  被告の主張

(一) 被告は、原告に対し、本件解決金の収入すべき時期は、原告の理解とは異なり、本件和解の附款となっている停止条件が成就したことを知った日まで(右附款が不確定期限を定めている場合には、期限が到来したことを知った日まで)は到来しないことを原告に教示するために本件更正の通知をしたにすぎない。したがって、本件更正は、厳密な意味における処分には当たらない。

(二) 本件更正は、原告の平成六年分の所得税の課税標準等及び税額等に変動を生じさせるものではなく、純損失の繰越控除前の総所得のうち一時所得の金額のみを申告額二億九九五〇万円から〇円に減額するものである。したがって、本件更正は、原告の法的地位に影響を与えるものではないから、原告には、本件更正の取消しを求める訴えの利益はない。

(三) なお、原告において、本件解決金の収入すべき時期が平成六年であると考えるならば、将来、被告が本件解決金の収入を後年分の所得と認めて増額更正をしたときに、その処分を不服として争えばよいのであって、本件更正は、法律上、原告が右のようにして争うことについて、何ら妨げとはならない。

また、本件更正は、原告に対し、本件解決金の収入を附款事実の到来した時の年分の所得として申告することを義務付けるものでもない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  別表1記載のとおり、原告がした確定申告と被告がした本件更正との差異は、本件解決金を平成六年分の一時所得とするか否かのみであり、しかも、その差異は、原告の平成六年分の所得税の課税標準等及び税額等に何ら影響を及ぼさない。

二  ところで、行政庁の行為が取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」(行政事件訴訟法三条二項)に当たるというためには、当該行為が、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものでなければならないところ(最高裁昭和三〇年二月二四日判決・民集九巻二号二一七頁)、本件更正は、確定申告によりすでに確定している原告の平成六年分の所得税の「納付すべき税額」を増減するのではなく、また、法律上、以後、原告において本件解決金が平成六年分の一時所得に当たると主張することを制限するものでもない(したがって、本件更正は、被告による原告に対する「教示」としての意味しか有していない。)から、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものではない。

したがって、本件更正は、取消訴訟の対象となる処分には当たらない。

第五総括

よって、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 鈴木和典)

別表1

確定申告と本件通知の対比

<省略>

平成5年分までに引ききれなかった純損失の額

<省略>

別表2

課税の経緯

<省略>

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